白河簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人星満を懲役八月に処する。
被告人横山春蔵は無罪。
弁護人芝沼栄作に支給した費用は全部被告人星満の負担とする。
理由
一、罪となるべき事実
被告人星満は、
昭和二十八年一月二十五日午後十時頃、栃木県那須郡那須村大字寺子丙三番地平和パチンコ屋入口軒下に於て高久重信所有の中古自転車壱台を窃取したものである。
(被告人星満の前科)
被告人満は昭和二十六年八月三十一日福島地方裁判所白河支部に於て私文書偽造行使詐欺、横領及び窃盗罪により懲役一年(昭和二十七年四月政令第一一八号に依り懲役九月に減刑)に処せられ当時その執行を終つたものである。
二、認定した証拠の標目
(一)高久重信の被害届及び同人の司法警察員に対する供述調書
(二)吉田チヨ、吉田保夫の司法警察員に対する供述調書
(三)被告人横山春蔵の司法警察員及び検察事務官に対する各供述調書
(四)被告人満の司法警察員及び検察事務官に対する各供述調書(但し被告人横山春蔵と共謀して本件の中古自転車を窃取したと供述する部分を除く)
(五)当公廷に於ける被告人の供述中、相被告人横山春蔵と共謀して窃取したという点を除きその余の供述
等を綜合して判示の犯行を被告人満が単独にて敢行したものと認定する。又前科は被告人の自供と前科調書に依つて認める。
三、法令の適用
被告人満の判示窃盗の所為について、これを法律に照すと刑法第二百三十五条に該当するが、被告人には前示の前科があるから同法第五十六条第五十七条により累犯の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役八月に処するを相当と認める。
訴訟費用中被告人満の国選弁護人芝沼栄作に支給した費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り被告人をして全部負担せしめる。
四、次に被告人横山春蔵に対する本件公訴事実の要旨は、
被告人は相被告人星満と共謀の上、昭和二十八年一月二十五日午後十時頃栃木県那須郡那須村大字寺子丙三番地平和パチンコ屋軒下から高久重信所有の中古自転車一台を窃取した。と謂うにあるが、これを審按するに被告人横山春蔵が本件自転車盗難事件について嫌疑者として取調を受くるに至つたのは、後に説示する被告人満の第一回司法警察員に対する供述調書にあるように被告人満の所持して居つた自転車が被告人春蔵の所有であつて同人から入質を依頼されたと供述したことから発端して居ると認められるが、
(一)被告人春蔵の司法警察員及び検察事務官に対する各供述調書の記載及び当公廷に於ける供述を綜合すると、
昭和二十八年一月二十五日の夜遅く白河市字中町のボンボンパチンコ屋附近に於て自転車を持つた被告人満に出会し、同人から誘われて白河地区署前のマーケツト吉田保夫方(同人の妻はチヨ)に到る際、自転車の荷台に乗せられて市川パン屋(白河駅前)まで行き、そこで降りて一足遅れて吉田方に来り、焼酎一本宛飲み、満が飲酒代の担保として自転車を同家に預け、その夜は東北本線踏切番の処に寝て翌朝満と別れ自宅に帰り、その日午後また吉田方に行き満より自転車の処分について相談を受けた際「他人から頼まれて入質するようにしたらよかろう」と申したのであつて吉田チヨが二十五日の夜右自転車を自分が持つて行つたように述べて居るのは私が満から借りて同所から乗つて一寸町に出たときにその自転車を見たので、それで私が持つて行つたものと想つたのであろう。その様な訳で満と共謀して黒田原駅前のパチンコ屋軒下から自転車を窃取した事実はない。また当夜黒田原に満と一緒に行つたこともないと終始一貫した供述をして居る。
(二)然るに被告人満の供述過程や相違点等によつて同人の供述が果して信憑性ありやを審按すると
同人の第一回司法警察員に対する供述調書によると一月二十五日午後一時頃白河市字中町のボンボンパチンコ屋で被告人横山春蔵に会い、同夜十時半頃同所を出て見ると横山が家から持つて来たという青つぽい色の自転車を脇から引張り出して来たので二人で市内をブラブラしてから十二時頃マーケツトの吉田方に行き焼酎を飲んでその自転車を預けて帰り翌日横山の依頼によつて入質しようとしたが捕えられた旨の供述記載あり、また同人の第二回司法警察員に対する供述調書には前回述べたことが嘘であつて一月二十五日の晩横山がパチンコで負けたから栃木県黒田原に行つて自転車を盗んで来ようと同人から誘われたのを幸いに横山の買つた切符で夜の八時過上り列車で黒田原に行きパチンコ屋の脇から鍵のかからない自転車一台を取つて二人で代る代る踏んで二人乗りで白河に帰り夫れよりマーケツトで焼酎を飲んだ旨の供述記載あり、
同被告人の検察事務官に対する供述調書によると、一月二十五日午後一時頃白河市中町ボンボンパチンコ屋で横山と会い夕刻横山の誘いによつて黒田原まで行き、パチンコ屋前にあつた約二十台の自転車の内、鍵のかかつてない自転車を自分が取り、横山が五、六間離れた処で見張りをして居つたが、自分はその自転車に乗り、約一里位逃げて来て待つて居つたところ横山が来たので二人で乗つて白河に帰つた旨の供述記載あり、
また当公廷に於ける被告人の供述によると、最初は黒田原に行つて自転車を盗むことを共謀して午後八時何分かの汽車で出掛けて横山と共謀の上窃取した旨供述し、次いで黒田原に行つてパチンコ屋に行き、数十台の自転車を見てから小遣銭欲しさに盗む気になり横山にここから盗んで白河に持つて行つて売払つてしまえば判らないからと誘つたら横山も承諾したので、これを取り、約一里位来て待つて居つた処に横山が来たので荷台に乗せて来た旨供述して居る。
このように、被告人の供述は種々の点に於て違つて居るに反し、被告人横山春蔵の供述が終始一貫して居つて両者の供述中一月二十五日夜遅く白河市内に於て被告人満が自転車を所持し夫れより横山とマーケツトに行き焼酎を飲んだ点が一致する以外両人が黒田原まで汽車で行き、行動を共にした点の証明は被告人満の供述以外にはない。従つて前記のように被告人満の供述については直ちに信憑することはできぬので、本件の自転車を同人が被告人春蔵と共謀して窃取したという証明は十分でないから刑事訴訟法第三百三十六条によつて被告人春蔵に対しては無罪の言渡をする。
以上の理由によつて主文の通り判決した次第である。(昭和二八年二月二八日白河簡易裁判所)